神社を巡る

稲前神社(愛知県岡崎市稲熊町)延喜式内社

2021年10月23日

神社情報

神社名稲前神社
鎮座地愛知県岡崎市稲熊町森下6
御祭神天照大御神
天児屋根命
応神天皇
創 建不詳(奈良時代か?)
社格等郷社
神名帳延喜式神名帳:三河国額田郡 稲前神社
文化財三河国神名帳:額田郡正五位下 稻猥天神
例大祭十月第三日曜日
境内社秋葉神社
金刀比羅神社
URL
御朱印〇(徳王稲荷社・金刀比羅社にて)
参拝日:2021年9月21日

御由緒

 創建時期は不詳。

 三河国は往古より伊勢神宮の神領が置かれていた地域になります。今回紹介する稲前神社は社名に"稲"が入っている事からも分かる様に稲前神社が鎮座していた場所は伊勢神宮に献上する稲(米)が作られていた神領である事を示しているとされ、収穫したコメを貯蔵する蔵が作られていた場所に創建された神社であるとしています。

 元々は現在の籠田公園の南側辺りに鎮座していたと言われています。室町時代になると稲前神社の境内に高師直などの菩提を弔うために総持寺が創建され、稲前神社は現在の材木町に遷座しています。そして、徳川家康が関東移封により岡崎は豊臣秀吉の家臣「田中吉政」が岡崎城に入城し、城郭の拡張に伴い、境内を没収され元神明に遷座後、さらに稲熊の地に遷座したとしています。

稲前神社が総持寺の建立によって現在の材木町久後に遷座したのは確かな様ですが、田中吉政によって稲前神社の神領が没収されどこに遷座したのかという点に様々な伝承があったするようです。

  • 岡崎市能見町鎮座「神明宮
    • 材木町久後に鎮座し稲前神社は、田中吉政によって社領没収された際、元神明に鎮座していた神明宮の境内に遷座したという口伝が残っているそうです。岡崎市誌では現在稲前神社は稲熊町に鎮座している事から伝承を確認できない為、「定め難い」としています。
  • 岡崎市上青野町鎮座「椿宮神明宮
    • 長徳三年に創建された「神領山本光寺」は稲前神社の別当を務めていたが、田中吉政による岡崎城拡張により寺領を没収され、上青野町に稲前神社と共に移り、明治維新まで本光寺が別当を務めていたが、明治維新により本光寺から離れ独立、明治四十四年に椿宮神明宮に合祀されたとしています。
  • 岡崎市菅生町鎮座「菅生神社
    • 菅生天王社神主「松平久筭」が伝える所によると、稲熊の社は往古は岡崎城内對面所の所に鎮座していたとし、稲前村は神領にて今の松應寺の辺りにあったという。天正十八年田中吉政による岡崎城の拡張にあたり、社は破却、御神体は菅生稲荷社に本殿に相殿というかたちで遷座。神領も没収され、稲前村は今の稲熊の地に移された。当時の別当は上青野村に移った神領山神光寺という。稲前神社は岡崎城内天王社にあり、稲荷、天王、稲前總社神名の三神相殿であるとする。

稲前神社の御祭神は?

 伊勢神宮の神領に創建された神社であることから、御祭神は「天照大御神」であるとしています。合祀時期は不明ですが、春日社、八幡社を合祀した為、現在では天照大御神の他に、春日神である「天児屋根命」八幡神である「応神天皇」も御祭神として祀られています。

稲前神社

 稲前神社は稲熊町字森下六番地に鎮座。境内六百四十二坪を有す。式内神社にして三河国二十六座の内、額田郡二座の一である。国内神名帳には正五位下稲狭天神坐額田郡とあり。舊記に依れば、此社もとは舊岡崎の地に在ありしが、高氏の額田郡を領し、総持寺を開くに及びて社地を轉じ、後材木町字久後の邊に移され、天正年中城郭の拡張に依りて、更に稲熊の地(始め同町字元神明と云ふ所に遷り、後今の地に遷座せし者也)に移轉したるものと。神祇志料に云ふ。

 稲熊神社、今乙見庄稲熊村にあり。神明宮という。盖大神宮の御園地なるを以て天照大神を祭る。後村上天皇正平元年六月御卜に、社司過穢す事あるを以て稲前神祟ありと伝えり、依て使を遣して中祓を科せしむ。凡毎年正月三日稲前神事を行う。

慶長二十年正月、目代春木氏より祭料として田一旦二畝十歩を寄進あり、依て其地を祭田と云ふ。

享保十七年十一月、石鳥居を造立し、慶應二年碧海郡新堀の人深見篤慶、「三河官社二十六座之内稲前神社」と記せる標石を建つ。

明治五年十月十二日、村社に列格。
明治十四年一月十五日、式内社たるの故を以て郷社に昇格。
明治四十二年九月一日、神饌幣帛料供進神社に指定せらる。
明治四十五年四月二十日、同町字鶴田十四番地鎮座の金刀比羅社を境内に移轉。
大正二年四月二十日、同町字海深五十二番地鎮座の春日社を境内に移轉。

 今の御祭神は、天照大御神、天児屋根命、応神天皇の三座なれども、八幡大神、春日大神の二柱は中古より合祀せしものであろう。

昭和四年発刊岡崎市誌七巻より

「延喜式神名帳」額田二座の内の1社で、伊勢神宮の神領の地に鎮座し往古は神倉があって、伊勢神宮に奉献の新稲をここに運び集めて伊勢へ送った。故に稲前といった。「国内神明帳」に神位正五位下『稲前神社』額田郡に座す、と記す。後年に春日大神と八幡大神を配祀すると、慶長二十年(1615年)正月に目代青木氏より、祭料田一反二畝十歩の寄進あり。明治五年十月十二日に村社に、同四十年一月十五日に郷社に昇格し、同四十二年九月一日に供進指定をうけた。

愛知県神社庁発刊 愛知県神社名鑑

延喜式内社巡りin三河国

 新型コロナウィルスパンデミックの早期沈静化を祈願する為に、まずは三河国内にある式内社を参拝して廻ろうかとおもっています。自分の神社巡りは、基本バイクを使って一人で巡って行くので、密にならず、ソーシャルディスタンスも確保し、さらに喋らないという感染防止策は万全の状態を維持しやすいかなと思っています。そこで、感染状況が改善しつつある時期を見極めながら参拝していき、その模様を紹介できたらと思います。

参拝記

 県道26号線の「稲熊町一丁目交差点」から少し北側に進んだガソリンスタンドの裏手に稲前神社の参道があります。元々は伊賀川の方まで参道が伸びていたんだと思われますが、現在は県道26号線が参道を横切る様な形で通っています。
 ガソリンスタンドの陰になってしまって少しわかりにくいのですが、幟ポールを目印に向かうのが一番わかりやすいかなと思われます。

参道

 稲前神社の参道入口には石鳥居や社号標などの石造物が据えられておらず、真っ直ぐ境内に向かって石段が伸びている非常に印象的な境内入口となっています。開かれた区画整理の住宅地から石段を登って森を潜ってに鎮座する稲前神社の境内に向かう石段の参道というだけで、神社の神秘性を高めてくれる感じがします。

 参道を登っていくと、途中左手に「伊勢神宮遥拝所」と彫られらた石柱が設けられています。この石柱を通して伊勢神宮を参拝する事ができるわけで、現代風に言い換えれば「リモート参拝」の考えが日本では古くから当たり前の様に存在していたという事になりますね。

 参道の中腹あたりには、享保十七年建立されたと思われる石鳥居と慶應二年に碧海郡新堀の深見篤慶によって据えられた「参河官社二十六座之内稲前神社」と彫られた標石が据えられています。

 当サイトで式内社を紹介していますが、この様式の標石をよく見かけます。明治時代以降に寄進された物なんだろうと思っていましたが、幕末の慶應二年(1866年)というなかなかキナ臭い時期に寄進された標石のようです。

 さらに参道を登っていくと今度は右手に、屋根が設けられた井戸がありました。これが現役の井戸なのか井戸跡なのかは不明ですが、注連縄がある処を見ると、まだ現役の井戸なのかな?

 さらに登っていくと、石灯篭、手水舎、二の鳥居が据えられた境内入口が見えてきます。

手水舎

 木造銅板葺き四本柱タイプの手水舎になります。ここ稲前神社の手水舎は丸柱が用いられていて、柱間が広くなっているので非常にどっしりとした印象を受けます。

二の鳥居

 昭和二年三月に建立された靖国鳥居になります。その名の通り靖国神社を始めとする全国の護国神社などに用いられている鳥居の様式なんだそうです。

境内

 二の鳥居を潜ると、社殿が鎮座している場所はさらに一段高くなっていました。石段を登った先に三の鳥居がみえています。

狛犬

社殿に向かう石段の手前に鎮座している狛犬一対になります。

 順番は前後してしまいますが、社殿前にも狛犬一対が鎮座しています。こちらは子乗り玉乗りの狛犬となっています。

三の鳥居

 文政元年(1818年)建立の神明鳥居による三の鳥居になります。

社殿

 切妻造銅板葺平入の拝殿を有する社殿になります。拝殿は四方に戸板がはめられていない為、開放型の拝殿の様に感じます。また、床は土間敷きとなっている点も非常に特徴的です。
 本殿は神明造風のRC構造となっていて、拝殿と本殿の間は露天の祭場となっています。

境内社

 本殿の向かって左側に鎮座している「秋葉社・金刀比羅社合殿」になります。こちらの境内社にも文政三年建立の額束のある明神鳥居が据えられています。

春日社石碑

 稲前神社の境内には、社殿前と境内の東の端に春日神社と彫られた石碑がそれぞれ据えられていました。御祭神にも春日神が祀られている事からも春日神社とは何らかの関係がある神社であるのかな。そういえば、大正二年に春日社を境内社として遷座したはずですが、参拝した時に春日社が見当たらなかった事からいつしか本殿に合祀されたのでしょうか。そうなると少なくともどちらかの石碑は境内社があった頃の春日社の石碑だったと考えられそうです。

社号標

 いつもなら神社参拝記の最初のあたりで紹介するはずの社号標になります。戦前までの社格制度の「郷社」と延喜式内社を示す「式内」を合わせて彫られているい稲前神社の社号標になります。元々は今は県道29号線となってしまった辺りに据えられていて、工事に際してこの場所に移されたのかもしれませんね。

地図で鎮座地を確認

神社名稲前神社
鎮座地愛知県岡崎市稲熊町森下6
最寄駅名鉄バス「岡崎北高東門前バス停」徒歩5分

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