古事記を読む

葦原の中つ国のことむけ|天の若日子の反逆

2021年11月5日

天の若日子の反逆

 高天原の天照大御神は葦原中つ国を服従させる為に、「天之若日子」を遣わせます。しかし、天之若日子は大国主命の娘「下照比売」を妻し、中つ国を我が物にしようと八年もの間、高天原に報告をすることを行わず、天照大御神は、天之若日子の真意を確かめるべく、雉名鳴女を遣わせますが・・・。

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故爾鳴女。自天降到。居天若日子之門湯津楓上而。言委曲如天神之詔命。爾天佐具賣。〈此三字以音。〉聞此鳥言而。語天若日子言。此鳥者。其鳴音甚惡。故可射殺云進。即天若日子。持天神所賜天之波士弓。天之加久矢。射殺其雉。爾其矢。自雉胸通而。逆射上。逮坐天安河之河原。天照大御神。高木神之御所。是高木神者。高御產巢日神之別名。故高木神。取其矢見者。血著其矢羽。於是高木神。告之此矢者。所賜天若日子之矢即示諸神等詔者。或天若日子不誤命。爲射惡神之矢之至者。不中天若日子。或有邪心者。天若日子。於此矢麻賀禮。〈此三字以音。〉云而。取其矢。自其矢衝返下者。中天若日子。寢朝床之高胸坂。以死。〈此還矢之也。〉亦其雉不還。故於今諺。曰雉之頓使是也。

  • 言委曲とは「何から何まで話す」という意
  • 麻賀禮まがれとは、災いの意である「禍る」の命令形でここでは「死ね」と同じ意になる。
  • 穴とは中つ国から高天原に矢が届いた時に空いた穴
  • 本とは起源という意

現代語訳

 こうして、鳴女は高天原より降り至り、天之若日子が住む家の門の神聖な楓の上に止まり、天照大御神が仰せになった事すべてを伝え問いた。天佐具売はこの雉がいう事を聞き、天之若日子に「この鳥はその鳴き声は不吉ですので、射殺すのがよいでしょう。」と進言するやいなや、天之若日子は天津神から賜った天之波士弓と天之加久矢を使い雉を射殺してしまった。

 この雉を射殺した矢は、雉の胸を貫ぬくと逆様に射上げられ天の安の河原に坐した天照大御神と高木神の元に届いた。この高木神は高御産巣日神の別名である。

 高木神はその矢を取り上げ確認すると、矢の羽の所に血がついていた。

 ここで、高木神は、
「この矢は、天之若日子に授けた矢である。」
と仰せになり、そのまま諸々の神々にその矢を見せたうえで、
「もし、天之若日子が命令に背く事なく、悪しき神を射抜いた矢が届いたのならば天之若日子には当たらず、もし、反逆する心があるのならば、天之若日子にこの矢が当たって死んでしまえ。」
と仰せになり、その矢を取って、その矢が飛んできた穴に衝き返しお下しなされると、朝床に寝ていた天之若日子の胸に刺さり死んでしまった。(これを還矢という。)

 また、雉は高天原に還ってきませんでした。だから、今でも諺に「雉のひたつかい(いったっきりのお使い)」という起源はこれである。

今回登場した神々

天之若日子あめのわかひこ天津神
天之佐具売あめのさぐめ国津神
天照大御神あまてらすおおみかみ天津神
高御産巣日神たかみむすびのかみ天津神神々の伝承
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まとめ

 ここに登場する「天之佐具売あめのさぐめ」は、一説には「天邪鬼」の原像ではないかという説があります。天之佐具売は日本書記では「天探女」と記されていて、探女とは「天の隠密なるものを探し出す霊能がある女」であるとし、交霊術を操るシャーマンの様な存在であったと考えられます。ここから、天之佐具売が雉名鳴名が天照大御神の伝言を天の若日子に伝えている所を「あの雉の声は不吉だ」と伝えている場面を、天の行為を邪魔する女から天を邪魔する鬼となって、天邪鬼へと変わっていったという説になります。

 天之佐具売が雉の声が不吉であるとしたのは「鳥占」なのではないでしょうか。

鳥占(とりうら)とは?

鳥の鳴き声、止まった枝の方向、飛ぶ方角などで吉凶を占った。また、正月に小鳥の腹を裂いて、穀物が胃の中にあるかどうかで年占をしたともいう。

 天之佐具売が天照大御神の使いである雉が天之若日子に何を伝えているのかまでは判るはずもなく、ただ天之若日子の家の門にある楓にとまった雉が鳴いているとしか判っていなかったと思われます。そして、その雉の鳴き声・止まった枝の方向などで不吉(凶)と判断し、天之若日子に「不吉であるので射殺した方がいい」と伝えたんだと思います。
 そこには、天照大御神の邪魔をするとかではなく、ただ主君である天之若日子の為に鳥占の結果を伝えた天之佐具売の姿があるだけで、天邪鬼の原型にされて、心外だ!って思っているかもしれませんね。

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