古事記を読む

別天津神|天地開闢の時にあらわれた五柱の神々

2021年6月13日

別天津神とは?

前回紹介した「造化三神」を含め、古事記に登場する最初の五柱の神を「別天津神ことあまつかみ」と総称します。この名からも分かる様に、高天原に出現する神々の総称「天津神」とは別の天津神であるとしています。

では、古事記にはどのように「別天津神」の事が書かれているのでしょうか?

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次、國稚如浮脂而久羅下那州多陀用幣流之時(流字以上十字以音)、如葦牙、因萌騰之物而成神名、宇摩志阿斯訶備比古遲神(此神名以音)、次天之常立神。(訓常云登許、訓立云多知。)此二柱神亦、獨神成坐而、隱身也。

上件五柱神者、別天神。

引用元:古事記上つ巻

前回の続きの文章になります。その為、冒頭から"次に"と書かれている訳です。ここでは「神産巣日神の次に出現した。」という事になります。

国とは"人間が住む土地"という意になるとされていますが、ここでは天と地が分かれた時の"地"と書いた方が分かりやすいかと思います。そして、地はまだ若く、油脂の様にどろどろとしていた事が描写され、そんな状態の"地"から神が出現する内容となっています。

現代語訳

(神産巣日神の)次は、地はまだ若くどろどろと浮いた油脂の様に海月の様に漂っているその時に、萌え騰がる葦の芽のごとく出現した神の名を宇摩志阿斯訶備比古遲の神、次に出現した神の名を天之常立の神といった。この二柱の神々も(造化三神同様に)独神として出現し、姿を隠された。

ここで、二柱の神の名が示されています。

  • 宇摩志阿斯訶備比古遲神うましあしかびひこぢ
  • 天之常立あめのことたち

天と地が分かれた時に、天(高天原)に出現した造化三神とは異なり、宇摩志訶備比古遲神と天之常立神は天ではなく地に出現した神であると書かれている様に読みとることができます。この事から、まだまだ地はどろどろと溶けた油脂の様に不安定な状態でただよう様な存在だったが、そんな地から天に向かって真っ直ぐ立派に伸びる葦の芽が生えるように宇摩志訶備比古遲神が出現し、更には、芽が伸びた先の天空には天之常立神が出現したとして、地が成長していく様を表している部分ではないでしょうか。

地に出現した宇摩志阿斯訶備比古遲神と天之常立神は高天原に出現した天津神ではなく、国津神ではないのか?と思ってしまいますが、天に向かって伸びていく様から天津神とされています。

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宇摩志阿斯訶備比古遲神

四番目に出現した神。
「宇摩志」は立派な、良いものを心に感じて讃めるという意で、「阿斯訶備」は春先に萌え出る葦の芽という意、「比古遲」は男性への親称であるとされています。

「宇摩志阿斯訶備比古遲神」は男女の性を持たない独神であるとされていますが、男性の親称「比古遲」を付けられているが、陽神ということではなく、葦の芽の形状と勢いから陽神と見立てたのであろうと言われています。

勢いよく成長する葦の芽から想像される様に、成長の神とされています。また、「葦は邪気を払う植物とされ、また葦の生える土壌には稲が育つ」という信仰から名付けられた神であるとも言われています。

天之常立神

五番目に出現した神。
その神名は、「天空に永久に立ち続ける事ができる神」という意になります。

「天」を高天原とするか、天空とするかでこの神の立ち位置が大きく変わると思います。高天原に立ち続けるとするとおかしい感じがするので、やはりここでは「天空」とするのが妥当なのではないかと思います。

天に向かって伸びる葦の芽という意がある「宇摩志阿斯訶備比古遲神」に続いて出現した神であることもある事から、葦の芽が伸びる先にある天空から生まれた神なのではないでしょうか。

まとめ

あらためて、別天津神の五柱の神々を見ていきましょう。

  • 天之御中主神あめのみなかぬしのかみ
  • 高御産巣日神たかみむすびのかみ
  • 神産巣日神かみむずびのかみ
  • 宇摩志阿斯訶備比古遲神うましあしかびひこぢのかみ
  • 天之常立神あめのことたちのかみ

この神々に共通するのは、男神でも女神でもなく独神であるとしている点、そして出現した後に姿を隠していることです。隠しているというより、人の目には映らなくなっていると理解した方がいいのかなとは思います。

神々の名から物事の中心を司る神、天と地の創造を司る神々、成長を司る神、天の永久性を司る神であるとされており、高天原と葦原中津国の形成に不可欠な神々である事から、天津神の中でも特別な「別天津神」としたのでしょう。

もっと詳しく

島根県出雲市に鎮座する「出雲大社」の本殿内にある御客座に別天津神である天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神、宇摩志阿斯訶備比古遅神、天之常立神の五柱が祀られています。(出雲の神々の総本山ともいえる出雲大社に別天津神の五柱が祀られているという点にとても惹かれます。)

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