日本書紀を読む

伊弉諾尊・伊弉冉尊|黄泉の国

黄泉の国(第十説)

日本書記を読む

一書曰、伊弉諾尊、追至伊弉冉尊所在處、便語之曰「悲汝故來。」答曰「族也、勿看吾矣。」伊裝諾尊、不從猶看之、故伊弉冉尊恥恨之曰「汝已見我情。我復見汝情。」時、伊弉諾尊亦慙焉、因將出返、于時、不直默歸而盟之曰「族離。」又曰「不負於族。」乃所之神、號曰速玉之男。次之神、號泉津事解之男。凡二神矣。及其與妹相鬪於泉平坂也、伊弉諾尊曰「始爲族悲、及思哀者、是吾之怯矣。」時、泉守道者白云「有言矣、曰、『吾、與汝已生國矣、奈何更求生乎。吾則當留此國、不可共去。』」是時、菊理媛神亦有白事、伊弉諾尊聞而善之。乃散去矣、但親見泉國、此既不祥。故、欲濯除其穢惡、乃往見粟門及速吸名門、然此二門、潮既太急。故、還向於橘之小門而拂濯也。于時、入水吹生磐土命、出水吹生大直日神、又入吹生底土命、出吹生大綾津日神、又入吹生赤土命、出吹生大地海原之諸神矣。不負於族、此云宇我邏磨穊茸。

  • 族也とは家族を示し、ここでは伊弉冉尊の夫である伊弉諾尊をさす。
  • 唾には約束を固める力があったとされ、伊弉諾尊の「負けない」と誓った言葉を強める為に唾を吐いたとされる。
  • 掃には「決意の為に吐いた唾を掃き払った」事から婚姻関係を払う=離縁したという意になるかと思います。
  • 泉平坂とは、黄泉平坂よもつひらさかを指し、黄泉の国と現つ国の間にあるとされる坂をさす。
  • 白云とは、「申してまおさく」となり、伊弉冉尊の詔を泉守道者が奏上する事を指している。
  • 粟門及速吸名門とは、現在の鳴門海峡と豊後水道を指す。

現代語訳

またある説(第十説)では、伊弉諾尊は伊弉冉尊が居る場所まで追いかけ、
「あなたが愛しくてここまでやってきたのだ。」
と伝えました。

すると、伊弉諾尊は
「愛する夫よ、私の姿は見ないで下さい。」
と答えた。

しかし、伊弉諾尊はその願いに従わず、伊弉冉尊の姿を見てしまいました。

伊弉冉尊は(願いを聞き入れられなかった事を)辱めを受け恨み、
「あなたは私の情(こころ)を見てしまった。私もまたあなたの情(こころ)を見てしまった。」
と述べると、伊弉諾尊はとても申し訳なくなり、伊弉冉尊の元から離れ帰ろうとした。

伊弉冉尊は、伊弉諾尊がそのまま黙って帰る事を良しとせず、誓う様に
「夫よ、別れましょう。」
と伝えました。

伊弉諾尊は伊邪那美の誓いに対し
「妻よ、{あなたの言葉に)私は負けない。」
そして、伊弉諾尊が吐いた唾から生まれた神を「速玉之男はやたまのお」という。
次に、それを掃き払った時に生れた神を「泉津事解之男よもつことさかのおといった。
これらは二柱の神である。

黄泉平坂にて妻である伊弉冉尊と言い争いになった時、伊弉諾尊は、
「私があなたを失って悲しいと思ったのは、私の心が弱かったからだ。」
と述べた。

泉守道者よもつちもりびとという者が申すには、
「伊弉冉尊からの詔があり、「私はあなたと共に国を産みました。なのにどうしてさらに子を産むことを求めるのですか。私はこの国に留まり、一緒には戻りません。」との事です。」

菊理媛神くくりひめのかみが何か言葉を漏らすと、伊弉諾尊はこの言葉を聞き、菊理媛神をお褒めになり、黄泉の国を去られた。

ただし、黄泉の国を自分の目で見た事が不浄(穢れ)であるので、これを洗い流そうとし、鳴門海峡と豊後水道を見て回ったが、この二つの海洋は、潮流がとても速かった。その為、橘の小門に戻り禊を行った。

水につかった時に、磐土命いわつちのみことが、
水から出た時に、大直日神おおなおひのかみが、
再び水につかった時に、底土命そこつつのみことが、
再び水から出た時に、大綾津日神おおあやつひのかみが、
さらに水に入った時に、赤土命あかつちのみことが、
そして、さらに水から出た時に、大地と海原の様々な神々がお生まれになられた。

不負於族は宇我邏磨穊茸うがらまけじと読む。

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まとめ

 この「一書曰」では、黄泉の国において姿を見られてしまった伊弉冉尊が姿を見てしまった伊弉冉尊に対し、離縁を申し出て、この申し出に対し、伊弉冉尊は「負けない」と返答を行っています。
 離縁の申し出に対して、「嫌だ」ではなく「負けない」と記している所に当時の人々の考えが出ているのではないかと思う訳です。伊弉冉尊は、離縁という誓いを申し出ており、この誓いに対して伊弉諾尊は「負けない」と回答をしていると思われます。この「誓い」というものが当時の人々の間でものすごい力を持っていた証左ではないでしょうか。

 この中では、

  • 速玉之男
  • 泉津事解之男
  • 菊理媛命

の三柱の神が黄泉の国から現つ国に戻る間に登場しています。
この三柱の内「速玉之男」、「泉津事解之男」の二柱については、熊野三山を本社として全国に鎮座する「熊野神社」の御祭神にその名を見る事があります。また、菊理媛命は白山媛命と同一視されており、白山神社の御祭神となっています。

※熊野速玉大社の祭神である「熊野速玉大神」は伊弉諾尊の別称であるとされています。しかし、「熊野大宮大社」の祭神である玉速之男神は、ここで登場した速玉之男であるとしているので、注意が必要です。

 日本書紀のこの部分でしか登場してこない「菊理媛命」。伊弉諾尊に話しかけ、褒められた神として描かれていますが、何を話したのかは全くの不明な訳で、正直どういった神なのか分からないのが実状です。その名前から「菊=聞く」、理は理解で、「聞いて理解する神」なのか、くくりと読むことから「括る神」なのか、よくわかりません。
 この菊理媛命が、どうして、白山大権現と同一視され、白山神社の御祭神となっていたのか・・・。白山信仰を開いた「泰澄」の頃には、白山権現=伊弉冉尊だったはずなんですが、このあたりの変遷はよくわかりません。が、現在で各地に鎮座する白山神社の御祭神は、菊理媛命か伊弉冉尊となっています。

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