古事記を読む

造化三神|天地初めて発りし時に、高天の原に成りませる神々

2021年6月12日

造化三神とは?

古事記」において最初に登場する三神の総称となります。特に、「造化」という言葉については、古事記を編纂した「太安万侶」が古事記の中で「序」として天皇へ奏上を記している文中に登場しており、日本の生い立ちにおいて外す事の出来ない神々であることを指示しています。

まずは序文の中では造化三神はどのように登場するのかを改めて紹介します。

古事記|原文

臣安萬侶言。

・・・中略・・・

然乾坤初分 參神作造化之首
陰陽斯開 二靈爲群品之祖

・・・後略・・・

和銅五年正月廿八日
正五位上勳五等太朝臣安萬侶謹上

この序文は、和銅五年に元明天皇に献上する際に太安万侶が奏上した文章なのではと考えているのですが・・・。簡単にいえば古事記の抜粋・古事記編纂の理由・古事記の概要を述べている文章になります。
で造化三神についての記述が登場するのは序盤の古事記の抜粋になります。

  • 乾坤は「天と地」
  • 三神は「天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神」
  • 造化の首(はじめ)を「始めて創造した → 初めて出現した」
  • 陰陽は「男女の両性」
  • 二霊は「伊邪那岐、伊邪那美の二神」

現代語訳

天皇陛下の臣、太安万侶が申し上げますには、
・・・中略・・・
天と地が初めて分かれ、天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神の三神が最初に出現した神であり、
男女の両性がここに開かれ、伊邪那岐・伊邪那美、万物の祖となった。
・・・後略・・・

ユリウス暦(西暦)712年3​月9日
正五位上勲五等太朝臣安萬呂

となって、一番最初に出現した神を「造化三神」として重要な神として記述されているのが見て取れます。この辺りを踏まえながら、いよいよ古事記本文を見ていく事にしましょう。

古事記|原文(上つ巻より)

天地初發之時、於高天原成神名、天之御中主神(訓高下天、云阿麻。下效此、)次高御產巢日神、次神產巢日神。此三柱神者、並獨神成坐而、隱身也。

  • 獨神は男女の性を持たない「ひとり神」
  • 隠身は人間には見ない状態

現代語訳

天と地が始まった時、高天原たかまのはらに登場した神の名は、天之御中主の神、次に、高御産巣日の神、次に、神産巣日の神。この三神は単独の神として生まれ、その後姿を隠した。

序文の紹介の時には当サイトの注釈で造化三神の神名を載せてしまいましたが、いよいよ、古事記本文でも造化三神の名が示されます。

  • 天之御中主神あめのみなかぬしのかみ
  • 高御産巣日神たかみむすびのかみ
  • 神産巣日神かみむすびのかみ

この三神が天と地がわかれた時にできた「高天原」に出現したとしています。この「高天原」がどういった場所なのか?これを理解できてくると、古事記を読み進めていく中で登場する場所などの相対関係が見えてきて、より深く古事記を読んでいく事ができるようになります。

では、高天原とはなんぞや?という疑問を古事記の中で求めても、高天原がどんな場所なのかという説明は記されていません。が、自分なりに考えると、天と地が分かれた時に、「天」に生れた場所が高天原であり、この場所に造化三神を始めとする神々が住んでいた。まだ「地」は混沌とした場所だったのでしょう。-序-で登場する伊邪那岐・伊邪那美は高天原に住みし神々から国造りの命を受け、大八島国が生みだす「国生みの儀」が行われます。この大八島国が生まれた場所こそが「地」であり、葦原中国あしはらのなかつくにと呼ばれる場所になります。

 高天原に出現した神を天津神あまつかみ葦原中国に出現した神を国津神くにつかみと呼び、神々の総称を「天神地祇てんしんちぎ」といいます。天津神の代表としては天照大御神、国津神の代表としては大国主命がいます。
 造化三神は高天原に出現した事から「天津神」になります。

多種多様な神々が登場する古事記にあって一番最初に登場する造化三神と呼ばれる天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神は、飛鳥時代末期から奈良時代初期のヤマト朝廷を取り巻く環境を指示しているのではないかと思うのですが・・・。当然「古事記」はヤマト朝廷の正統性を内外に示す為に作られたという側面があるはずで、その冒頭に出てくる最初の神々はなんらか意図して登場させているはずなんですが・・・、その登場シーンはあまりにも短く、どういった背景がこの造化三神にあるのかは古事記の文面から読み取るのは中々厳しいですね、

日本の歴史書のもう一方の雄「日本書紀」では造化三神は描かれているのだろうか?もし、描かれているならば、古事記の内容と何らかの違いがあるのだろうか?

天地開闢|天地初めて発りし時に、高天の原に成りませる神々【日本書記編】

天之御中主神

一番最初に出現した神。
その名が指し示す様に、「高天原の神聖な中央に位置する主君」という神の意となる。

【「中央」は何を意味するのか?】

 物理的な中心という意と、神々の中心という意の両方を示しています。
 この事から、「高天原に中心を定めた神であり、この神を中心にして高天原が広がって行った」という事を意味しているのではないでしょうか。

古事記の最初に登場する神でありながら、諸神の中心的な神でありながら、独神であり身を隠したと記された後は一切登場する事のないのはなんらかの朝廷の意思が働いたのではないのか?とも言われていますが、どうなんでしょうね?

高御産巣日神

二番目に出現した神。
その神名は「高く神聖な生成の霊力」という意となります。別称は「高木神」。

 高木神という別称が示す様に「高い木を依代にして降臨する神」のいう意から転じて「高処から降臨する」という特徴をもつ神であるとされています。

高御産巣日神も身を隠しているのですが、天照大御神と形影相伴うごとくに登場し重要は働きをする神となります。

神産巣日神

三番目に出現した神
その神名は「神々しく神聖な生成の霊力」という意となります。

 この神産巣日神の正式名称は「神御産巣日神」であったであろうと思いますが、これだと「かむみむすひ」という読み方となり、日本語の省略文化によって「み」を脱落させて「かむむすひ」と呼んでいたのを文字化されて「神産巣日神」と「御」が抜け落ちたのだろうと思われる。

高御産巣日神と同じく生成=創造を司る神としていますが、天照大御神との関係性が強い高御産巣日神とは異なり、大国主命を中心とする出雲系の神々との関係性が強いのが神産巣日神になります。

まとめ

天と地が分かれた時、天の部分に出現した天之御中主の神により、天の中心が決まりそこに高天原が生まれていきます。

高天原系の神々の至高神ともいえる「天照大御神」と非常に繋がりが強い高御産巣日の神、出雲系の神々との繋がりが強い神産巣日の神が出現します。

この辺りは、高天原系=ヤマト朝廷、出雲系=出雲国の勢力争いが繰り広げられていたという古代日本の変遷を意味しているのではないでしょうか。

このヤマトvs出雲の争いを抑え、融和を図る神が「中心」の意をその名に持つ天之御中主の神になるのでしょう。

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