古事記を読む

天孫日子番能邇邇芸命|天孫降臨

2021年12月16日

天孫降臨

豊葦原水穂国への降臨を命じられた「日子番能邇邇芸命」は高天原まで参上した「猿田毘古神」の先導によって降臨を開始なされた。

古事記をよむ

爾天兒屋命。布刀玉命。天宇受賣命。伊斯許理度賣命。玉祖命。并五伴緒矣。支加而。天降也。

於是副賜其遠岐斯〈此三字以音。〉八尺勾璁鏡。及草那藝劔。亦常世思金神。手力男神。天石門別神而詔者。此之鏡者。專爲我御魂而。如拜吾前。伊都岐奉。次思金神者。取持前事。爲政。

此二柱神者。拜祭佐久久斯侶。伊須受能宮。〈自佐至能以音。〉次登由宇氣神。此者坐外宮之度相神者也。次天石戶別神。亦名謂櫛石窓神。亦名謂豐石窓神。此神者。御門之神也。次手力男神者。坐佐那那縣也。故其天兒屋命者。〈中臣連等之祖。〉布刀玉命者。〈忌部首等之祖。〉天宇受賣命者。〈猿女君等之祖。〉伊斯許理度賣命者。〈作鏡連等之祖。〉玉祖命者。〈玉祖連等之祖。〉

故爾(詔)天津日子番能邇邇藝命(而)。離天之石位。押分天之八重多那〈此二字以音。〉雲而。伊都知和岐知和岐弖。〈自伊以下十字以音。〉於天浮橋。宇岐士摩理。蘇理多多斯弖。〈自宇以下十一字亦以音。〉天降坐于竺紫日向之。高千穗之久士布流多氣。〈自久以下六字以音。〉

故爾天忍日命。天津久米命。二人。取負天之石靫。取佩頭椎之大刀。取持天之波士弓。手挾天之眞鹿兒矢。立御前而仕奉。故其天忍日命。〈此者。大伴連等之祖。〉天津久米命。〈此者久米直等之祖也。〉

於是詔之。此地者向韓國。眞來通笠紗之御前而。朝日之直刺國。夕日之日照國也。故此地甚吉地。詔而。於底津石根。宮柱布斗斯理。於高天原。氷椽多迦斯理而坐也。

  • 其遠岐斯とは天照大御神の石屋戸ごもりの際に招きだす時の事をさす。
  • 伊須受能宮とは「五十鈴の宮」・・・内宮をさす
  • 度相とは現在の三重県度会郡をさす
  • 伊都とは神聖なるという意。
  • 知和岐はかき分けるという意。
  • 天之石靫とは神聖な矢を入れる道具をさす
  • 大伴連等とは朝廷の軍事部門を掌握する氏族
  • 久米直等とは朝廷の兵士集団をさす
  • 笠紗之御前は、現在の鹿児島県川辺郡笠沙町の野間岬をさす。
  • 朝日之直刺國夕日之日照國は国褒するさいに使われる慣用句。日がよく当たる国という意
  • 宮柱布斗斯理於高天原氷椽多迦斯理とは立派な宮殿(皇居)と建てる際に使わ衛る慣用句

現代語訳

 邇邇芸命は、天児屋命、布刀玉命、天宇受売命、伊斯許理度賣命、玉祖命を「五伴緒」を従者に加えて天降りなされた。

 この時、天照大御神は邇邇芸命に「八尺勾玉」「鏡」「草薙の剱」を与え、さらに思金神、手力男神、天之石戸別神を従者として付け、「この鏡は、私の御魂として、私を祭るように心身を清めて仕えなさい。」そして、「思金神は、私の元に居た時と同じように、政(まつりごと)を行いなさい。」と命じられた。
 この二柱の神(邇邇芸命、思金神)は、伊須受の宮をあがめお祀りになった。次に登由気神、この神は度相に坐す神である。次に天石戸別神、又の名を櫛石窓神といい、又の名を豊石窓神という。この神は御門の神である。次に手力男神は佐那々県に坐す神である。ちなみに、天児屋命は中臣の連等が祖、布刀玉命は忌部の首等の祖、天宇受売命は猿女の君等が祖、伊斯許理度賣命は作鏡の連等が祖、玉祖命は玉祖の連等が祖である。
 こうして、天津日子番能邇邇芸命は命に従って、天の石位を離れ、天の八重にたなびく雲を押し分け、神聖なる道を幾度となくかき分け、中空の浮橋から浮島にお立ちになり、筑紫の国の日向の高千穂の久士布流多紀(奇しふる丘)に天降りなされた。
 こうして、天忍日命、天都久米命の二人、天之石靫いしゆきを背負い、頭椎の太刀を帯び、天之櫨弓を持ち、天の真鹿児矢を挟み持って邇邇芸命の御前に立ち先導した。この天忍日命は大伴の連等の祖、天津久米命は久米の直等の祖である。
 ここで、邇邇芸命が「この地は韓国に向っていて笠紗の岬にまっすぐ通じており、日がよく照らしてくれる国であるようだ。だから、ここはとてもよい土地である。」と仰せになり、宮殿を造営なされた。

【送料無料】 古事記 新潮日本古典集成 新装版 / 西宮一民 【全集・双書】

今回登場した神々

日子能番能邇邇芸命ひこほのににぎのみこと天津神
天児屋命あめのこやねのみこと天津神
布刀玉命ふとだまのみこと天津神
天宇受売命あめのうずめのみこと天津神
伊斯許理度賣命いしこりどめのみこと天津神
玉祖命たまのやのみこと天津神
思金神おもいかねのかみ天津神
手力男神たぢからおのかみ天津神
天之石門別神あめのいはとわけのかみ天津神
豊由気神とゆけのかみ天津神
天忍日命あめのおしひのみこと天津神
天津久米命あめつくめのみこと天津神

まとめ

 天降りの命を受けた邇邇芸命は共に降る従者を選びます。この選ばれた五柱の神を「五伴緒いつとものお」と呼ばれます。

五伴緒とは

天孫「日子番能邇邇芸命」に従って高天原より降ったと伝えられる神の事。

  • 天兒屋命・・宮廷祭式の管掌氏族「中臣氏」の祖
  • 布刀玉命・・宮廷祭式の祭具を貢納した品部の祖
  • 天宇受賣命・・宮廷鎮魂祭の舞楽奉仕の女性を貢納した氏族の祖
  • 伊斯許理度賣命・・呪的祭具の鏡を貢納した品部の祖
  • 玉祖命・・呪的祭具の玉を貢納した品部の祖

この五柱は「祭具氏族」の祖であるとしています。

特に、宮中祭式を取り仕切り、祝詞を奏上した「中臣氏」は朝廷内において有力氏族となっていきます。

 さらに、天照大御神からは三種の神器とも呼ばれる「鏡」「勾玉」「草薙剣」が与えられ、特に鏡は天照大御神自身である思って奉仕せよとの命じられています。

現在では、
鏡は神宮(内宮)の御神体として内宮にて奉安されています。
勾玉は、現在でも皇居にて奉安されています。
草薙剣は、熱田神宮の御神体として熱田神宮で奉安されています。

 そして、邇邇芸命は現在の大分県高千穂にある山に降り立ったとしています。この降り立った山については特定できないようなのですが、国見ヶ丘を指すという説もあるようです。そして突如、朝廷の武力の現す「天忍日命」「天津久米命」が登場してくる所を見ると、武力によって高千穂周辺を納めた事が見えてきます。この事から、ヤマト朝廷は高千穂周辺を納めていた豪族から始まったといえそうですね。

天孫日子番能邇邇芸命|天の宇受売命と猿田毘古神

-古事記を読む