日本書紀を読む

巻第六 垂仁天皇|先皇の功績

2025年6月1日

日本書紀とは?

 養老四年(720年)に完成したとする日本最古の正史である「日本書紀」(やまとぶみ・にほんしょき)になります。ほぼ同時期に造られたという「古事記」と何かと対比されがちな傾向にあります。先にも述べましたが、「日本書紀」は正史として国内外に発信すべく造られた書であり、「古事記」は物語調でもあり国内に向けて天皇の正統性を発信する書であり、編纂目的は大きく異なっています。こうして異なった目的で編纂されたこともあり、古事記は物語調という事もあり非常に読みやすい書であるのに対し、日本書紀は年代を追って書く編年体を取っていて正直呼んでも面白くは・・・・。
 同時期に編纂されたこともあり、物語の冒頭から巻末までの範囲はほぼ同じなわけで、古事記と日本書紀を読み比べていくと飛鳥時代から奈良時代にかけての日本のあり様が見えてくるのではないでしょうか。

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本文

廿五年春二月丁巳朔甲子 詔阿倍臣遠祖武渟川別・和珥臣遠祖彥國葺・中臣連遠祖大鹿嶋・物部連遠祖十千根・大伴連遠祖武日 五大夫曰「我先皇御間城入彥五十瓊殖天皇 惟叡作聖 欽明聰達 深執謙損 志懷沖退 綢繆機衡 禮祭神祇 剋己勤躬 日愼一日 是以 人民富足 天下太平也 今當朕世 祭祀神祇 豈得有怠乎」

  • 大夫・・上級官僚の事

現代語訳

垂仁天皇二十五年、春二月八日

阿部臣あべのおみの遠祖である武渟川別たけぬなかわわけ和珥臣わにのおみの遠祖である彦国葺ひこくにふく中臣連なかとみのむらじの遠祖である大鹿嶋おおかしま物部連もののべのむらじの遠祖である十千根とちね大伴連おおとものむらじの遠祖である武日たけひ、この朝廷の重臣である五大夫に「先皇である御間城入彦五十瓊殖天皇みまきいりひこいにえのすめらみことは、とても思慮深い聖人であり、慎み深く聡明で、思慮深く謙遜で、志高く、国を治めた。神祇を敬い、己に厳しく、日々を慎むことで民は富み、天下泰平となる。今まさに朕が神祇を祭祀する事を怠る事があろうか。」の述べた。

登場した人々

  • 阿部臣:武渟川別
    • 第八代孝元天皇の皇子大彦尊を祖とし、大和国十市郡安陪を本拠とした豪族
  • 和珥臣:彦国葺
    • 第五代孝昭天皇の皇子天足彦国押人命を祖とし、大和国添上郡和邇を本拠とした豪族
  • 中臣連:大鹿嶋
    • 天児屋命を祖先とし、河内国河内郡を本拠地とした豪族
    • 神事・祭事を管掌し、代々神祇官や神宮の神事祭祀職を世襲した
  • 物部連:十千根
    • 饒速日命を祖先とし、大和国山辺郡・河内国渋川郡あたりを本拠地とした豪族
    • 神武天皇の御代より大王家に仕え、主に朝廷の軍事を管掌したという
  • 大伴連:武日
    • 天忍日命を祖先とし、摂津国住吉郡を本拠地とした豪族
    • 物部氏と共に朝廷の軍事を管掌し、宮廷を警護していたという

氏姓制度

ヤマト朝廷内における貢献度などに応じて豪族に「氏」と「姓」が与えられ、その地位が世襲された制度の事。元々ヤマト朝廷内の天皇家(大王家)は絶対的な立場であった訳ではなく、ヤマト地方の豪族の盟主的な立場であり、各豪族の連合体であったと考えられています。その各豪族を取りまとめる為に取り入れられたのが「氏姓制度」になります。

    • 支配していた地名を由来とする「氏」を持ち、大王家と肩を並べる勢力を持ち連合を組んでいた豪族に与えられた「姓」の事
    • 蘇我氏、葛城氏、巨勢氏、和珥氏など。
    • 朝廷内の職務を由来とする「氏」を持ち、朝廷内の官僚として重要な役割を果たした氏族に与えられた「姓」の事
    • 大伴氏、物部氏、中臣氏、土師氏など。

まとめ

 この段では、垂仁天皇に仕える五大夫を呼び集め、先代である崇神天皇の功績と天神地祇を奉斎する事で天下泰平を祈願する気持ちをより強く持ち続けている事を宣言している内容になります。これは、天皇家(大王家)と各氏族との関係性を示していると思われ、自らの勢力権をお持ちながら天皇に仕える豪族に与えられた「臣」という姓を持つ阿部臣と和珥臣と、朝廷内の重要な役職に就いていた豪族に与えられた「連」という姓を持つ中臣連と物部連と大伴連とうまさに当時ヤマト朝廷を支えていたはずの重臣に対して訓示を示している場面になるかと思います。

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 日本書紀を読んでいくにあったって、原文は漢文で書かれているので非常に読み込むのが困難なので、現代語訳されている本が一冊あると助かるかと思います。当サイトでは、戦前から日本書記の翻訳本として有名な岩波文庫の日本書記を非常に参考にさせて頂いています。

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