日本書紀を読む

耦生の八神|神代七代の神々の化成

日本書紀とは?

 養老四年(720年)に完成したとする日本最古の正史である「日本書紀」(やまとぶみ・にほんしょき)になります。ほぼ同時期に造られたという「古事記」と何かと対比されがちな傾向にあります。先にも述べましたが、「日本書紀」は正史として国内外に発信すべく造られた書であり、「古事記」は物語調でもあり国内に向けて天皇の正統性を発信する書であり、編纂目的は大きく異なっています。こうして異なった目的で編纂されたこともあり、古事記は物語調という事もあり非常に読みやすい書であるのに対し、日本書紀は年代を追って書く編年体を取っていて正直呼んでも面白くは・・・・。
 同時期に編纂されたこともあり、物語の冒頭から巻末までの範囲はほぼ同じなわけで、古事記と日本書紀を読み比べていくと飛鳥時代から奈良時代にかけての日本のあり様が見えてくるのではないでしょうか。

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耦生の八神

本文を読む

次有神 埿土煑尊 埿土 此云于毗尼 沙土煑尊 沙土 此云須毗尼 亦曰埿土根尊、沙土根尊 次有神 大戸之道尊一云 大戸之邊、大苫邊尊 亦曰大戸摩彥尊、大戸摩姬尊 亦曰大富道尊、大富邊尊 次有神 面足尊惶根尊 亦曰吾屋惶根尊 亦曰忌橿城尊 亦曰靑橿城根尊 亦曰吾屋橿城尊 次有神 伊弉諾尊伊弉冉尊

現代語訳

次に現れた神は、埿土煑尊うひぢにのみこと(埿土、これを「うひぢ」と読む。)、沙土煑尊すひぢにのみこと(沙土、これを「すひぢ」と読む。)またの名を、埿土根尊うひぢねのみこと沙土根尊すひぢねのみことという。次に現れた神は、大戸之道尊おほとのぢのみこと(ある言い伝えでは大戸之邊おほとのべとも言う。)、大苫邊尊おほとまべのみこと(またの名を大戸摩彥尊おほとまひこのみこと大戸摩姬尊おほとまひめのみこと またの名を大富道尊おほとまぢのみこと大富邊尊おほとまべのみことという。)次に現れた神は、面足尊おもだるのみこと惶根尊かしこねのみこと(亦の名を吾屋惶根尊あやかしこねのみこと忌橿城尊いむかしきのみこと靑橿城根尊あをかしきねのみこと吾屋橿城尊あやかしきのみことという。)次に現れた神は、伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉冉尊いざなみのみことという。

 天地開闢の本文で生まれた三柱の神は男女の区別が存在せず、陽気だけを受け取った男性神であるとしています。しかし、その次に現れた神は男性神、女性神が対で生まれています。

別伝を読む

第一別伝

一書曰 此二神 靑橿城根尊之子也

現代語訳

ほかの伝承では、この二柱の神は青橿城根尊あをかしきねのみことの子である。

 この二柱の神とはどの神を指しているのか。本文をよく読むと青橿城根尊は惶根尊の別称である事が解ります。そして惶根尊の次に現れたのが伊弉諾尊と伊弉冉尊となっている事からこの伊弉諾尊・伊弉冉尊は惶根尊(青橿城根尊)の子であると読み取る事ができます。

 今までは自然発生的な感じで神々が現れていましたが、この伝承では「神が子を産む」という「血統」・・・いや「系譜」が発生する事になっているのが特徴です。

第二別伝

一書曰 國常立尊生天鏡尊 天鏡尊生天萬尊 天萬尊生沫蕩尊 沫蕩尊生伊弉諾尊 沫蕩 此云阿和那伎。

現代語訳

ほかの伝承では、国常立尊が天鏡尊あまのかがみのみことを生んだ。天鏡尊が天万尊あまのよろづのみことを生んだ。天万尊が沫蕩尊あわなぎのみことを生んだ。沫蕩尊が伊弉諾尊いざなぎのみことを生んだ。沫蕩、これを「あわなぎ」という。

 こちらの伝承では、今までの本文・伝承をすべてひっくり返すというか、第一別伝の内容をさらに踏み込んだ様な内容で、一番最初に化生した国常立尊から伊弉諾尊まで「神生み」による四世代の系譜が出来ているのが特徴です。

神代七代の神々の化成

本文を読む

凡八神矣 乾坤之道相參而化 所以 成此男女 自國常立尊 迄伊弉諾尊、伊弉冉尊 是謂神世七代者矣。

現代語訳

併せて八柱の神々がお生まれになった。陰陽の道が入り乱れてお生まれになったので、男神、女神の両性となっている。国常立尊くにとこたちのみことから伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉冉尊いざなみのみことに至るまでこれを神世七代という。

別伝を読む

第一別伝

一書曰 男女耦生之神 先有 埿土煑尊・沙土煑尊 次有 角樴尊・活樴尊 次有 面足尊・惶根尊 次有 伊弉諾尊・伊弉冉尊。樴、橛也。

現代語訳

ほかの伝承では、男女並び立って生まれた神は、まず泥土煮尊うひぢにのみこと沙土煮尊すひぢにのみこと次に角杙尊つのくいのみこと活杙尊いくぐいのみこと。次に面足尊おもだるのみこと惶根尊かしこねのみこと。次に伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉冉尊いざなみのみこと。樴は杙(クイ)の意味である。

登場した神々

  • 埿土煑尊(埿土根尊)
    • 名義は「泥土が混ざり合った状態」。次の「沙土煑尊」と合わせて神代七代の第四代となる。
  • 沙土煑尊(沙土根尊)
    • 名義は「砂土が混ざり合った状態」。「埿土煑尊」と合わせて神代七代の第四代となる。
  • 大戸之道尊(大戸摩彥尊・大富道尊)
    • 名義は「偉大な、門口いる父親」。集落や家屋の門には守護神が居ると信じられていた事から神格化したとされる。次の「大苫邊尊」と合わせて神世七代の第五代となる
  • 大苫邊尊(大戸摩姬尊・大富邊尊)
    • 名義は「偉大な、門口にいる女」。大戸之道尊と同じく守護神がいると信じられていた門が神格化した。「大戸之道尊」と合わせて神世七代の第五代となる。
  • 面足尊
    • 名義は「容姿が満ち足りていること」。人体の完備を示したと言われるが、現在でも各地に伝わる「生殖器崇拝」が神格化したとも考えられる。次の「惶根尊」と合わせて神世七代の第六代となる。
  • 惶根尊(吾屋惶根尊・忌橿城尊・靑橿城根尊・吾屋橿城尊)
    • 名義は「知性が満ち足りていること」。面足尊と対であることから「生殖器崇拝」が神格化したとも考えられる。「面足尊」と合わせて神世七代の第六代となる。
  • 伊弉諾尊
    • 名義は「媾合に誘い合う男性」。男女媾合による生産豊穣が神格化した。次の「伊弉冉尊」と合わせて神世七代の第七代となる。
  • 伊弉冉尊
    • 名義は「媾合に誘い合う女性」。男女媾合による生産豊穣が神格化した。「伊弉諾尊」と合わせて神世七代の第七代となる。
  • 角杙尊
    • 名義は「角状の棒杙」。村落や家屋の境界を示す「杙」が神格化したとされる。次の「活杙尊」と合わせて別伝では神世七代の第五代となる。
  • 活杙尊
    • 名義は「生き生きとした棒杙」。角杙尊と同じく、境界を示す「杙」が神格化したとされる。「角杙尊」と合わせて別伝では神世七代の第五代となる。

日本書紀の天地開闢の記事の中でも述べていますが、日本書紀では古事記で登場した別天津神の五柱は登場しておらず、「地」または「天と地の間」に出現した神のみを記しています。この事から、日本書紀では「神代七代」から始まったという形になっています。

伝承第一代第二代第三代第四代第五代第六代第七代
古事記国之常立神豊雲野神宇比地邇神
須比智邇神
角杙神
活杙神
意富斗能地神
大斗乃弁神
於母陀流神
阿夜訶志古泥神
伊邪那岐神
伊邪那美神
日本書記本文
国常立尊国狭槌尊豊斟渟尊埿土煑尊
沙土煑尊
大戸之道尊
大苫邊尊
面足尊
惶根尊
伊弉諾尊
伊弉冉尊
日本書紀記一国常立尊国狭槌尊豊斟渟尊埿土煑尊
沙土煑尊
角杙尊
活杙尊
面足尊
惶根尊
伊弉諾尊
伊弉冉尊

 古事記と日本書紀に登場する神代七代を一覧にしてみました。日本書記にのみ登場する「国狭槌尊」を除けは記紀ともに共通した神々が登場している事を考えると記紀編纂以前になんらかの歴史書が存在していたのか、はたまた、色々な文化を伝えた渡来人の影響なのかは分かりませんが、ある程度の共通認識があったように思えます。

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まとめ

神代七代が誕生した事で何もなかった混沌とした何もなかった世界から男女が共に生活していく世界へと移り変わっていきます。そして、伊弉諾尊・伊弉冉尊による国造りが始まっていきます。

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 日本書紀を読んでいくにあったって、原文は漢文で書かれているので非常に読み込むのが困難なので、現代語訳されている本が一冊あると助かるかと思います。当サイトでは、戦前から日本書記の翻訳本として有名な岩波文庫の日本書記を非常に参考にさせて頂いています。

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