
耦生の八神
本文を読む
次有神 埿土煑尊 埿土 此云于毗尼 沙土煑尊 沙土 此云須毗尼 亦曰埿土根尊、沙土根尊 次有神 大戸之道尊一云 大戸之邊、大苫邊尊 亦曰大戸摩彥尊、大戸摩姬尊 亦曰大富道尊、大富邊尊 次有神 面足尊、惶根尊 亦曰吾屋惶根尊 亦曰忌橿城尊 亦曰靑橿城根尊 亦曰吾屋橿城尊 次有神 伊弉諾尊、伊弉冉尊
天地開闢の本文で生まれた三柱の神は男女の区別が存在せず、陽気だけを受け取った男性神であるとしています。しかし、その次に現れた神は男性神、女性神が対で生まれています。
別伝を読む
第一別伝
一書曰 此二神 靑橿城根尊之子也
この二柱の神とはどの神を指しているのか。本文をよく読むと青橿城根尊は惶根尊の別称である事が解ります。そして惶根尊の次に現れたのが伊弉諾尊と伊弉冉尊となっている事からこの伊弉諾尊・伊弉冉尊は惶根尊(青橿城根尊)の子であると読み取る事ができます。
今までは自然発生的な感じで神々が現れていましたが、この伝承では「神が子を産む」という「血統」・・・いや「系譜」が発生する事になっているのが特徴です。
第二別伝
一書曰 國常立尊生天鏡尊 天鏡尊生天萬尊 天萬尊生沫蕩尊 沫蕩尊生伊弉諾尊 沫蕩 此云阿和那伎。
こちらの伝承では、今までの本文・伝承をすべてひっくり返すというか、第一別伝の内容をさらに踏み込んだ様な内容で、一番最初に化生した国常立尊から伊弉諾尊まで「神生み」による四世代の系譜が出来ているのが特徴です。
神代七代の神々の化成
本文を読む
凡八神矣 乾坤之道相參而化 所以 成此男女 自國常立尊 迄伊弉諾尊、伊弉冉尊 是謂神世七代者矣。
別伝を読む
第一別伝
一書曰 男女耦生之神 先有 埿土煑尊・沙土煑尊 次有 角樴尊・活樴尊 次有 面足尊・惶根尊 次有 伊弉諾尊・伊弉冉尊。樴、橛也。
登場した神々
- 埿土煑尊(埿土根尊)
- 名義は「泥土が混ざり合った状態」。次の「沙土煑尊」と合わせて神代七代の第四代となる。
- 沙土煑尊(沙土根尊)
- 名義は「砂土が混ざり合った状態」。「埿土煑尊」と合わせて神代七代の第四代となる。
- 大戸之道尊(大戸摩彥尊・大富道尊)
- 名義は「偉大な、門口いる父親」。集落や家屋の門には守護神が居ると信じられていた事から神格化したとされる。次の「大苫邊尊」と合わせて神世七代の第五代となる
- 大苫邊尊(大戸摩姬尊・大富邊尊)
- 名義は「偉大な、門口にいる女」。大戸之道尊と同じく守護神がいると信じられていた門が神格化した。「大戸之道尊」と合わせて神世七代の第五代となる。
- 面足尊
- 名義は「容姿が満ち足りていること」。人体の完備を示したと言われるが、現在でも各地に伝わる「生殖器崇拝」が神格化したとも考えられる。次の「惶根尊」と合わせて神世七代の第六代となる。
- 惶根尊(吾屋惶根尊・忌橿城尊・靑橿城根尊・吾屋橿城尊)
- 名義は「知性が満ち足りていること」。面足尊と対であることから「生殖器崇拝」が神格化したとも考えられる。「面足尊」と合わせて神世七代の第六代となる。
- 伊弉諾尊
- 名義は「媾合に誘い合う男性」。男女媾合による生産豊穣が神格化した。次の「伊弉冉尊」と合わせて神世七代の第七代となる。
- 伊弉冉尊
- 名義は「媾合に誘い合う女性」。男女媾合による生産豊穣が神格化した。「伊弉諾尊」と合わせて神世七代の第七代となる。
- 角杙尊
- 名義は「角状の棒杙」。村落や家屋の境界を示す「杙」が神格化したとされる。次の「活杙尊」と合わせて別伝では神世七代の第五代となる。
- 活杙尊
- 名義は「生き生きとした棒杙」。角杙尊と同じく、境界を示す「杙」が神格化したとされる。「角杙尊」と合わせて別伝では神世七代の第五代となる。
日本書紀の天地開闢の記事の中でも述べていますが、日本書紀では古事記で登場した別天津神の五柱は登場しておらず、「地」または「天と地の間」に出現した神のみを記しています。この事から、日本書紀では「神代七代」から始まったという形になっています。
伝承 | 第一代 | 第二代 | 第三代 | 第四代 | 第五代 | 第六代 | 第七代 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
古事記 | 国之常立神 | 豊雲野神 | 宇比地邇神 須比智邇神 | 角杙神 活杙神 | 意富斗能地神 大斗乃弁神 | 於母陀流神 阿夜訶志古泥神 | 伊邪那岐神 伊邪那美神 |
日本書記本文 | 国常立尊 | 国狭槌尊 | 豊斟渟尊 | 埿土煑尊 沙土煑尊 | 大戸之道尊 大苫邊尊 | 面足尊 惶根尊 | 伊弉諾尊 伊弉冉尊 |
日本書紀記一 | 国常立尊 | 国狭槌尊 | 豊斟渟尊 | 埿土煑尊 沙土煑尊 | 角杙尊 活杙尊 | 面足尊 惶根尊 | 伊弉諾尊 伊弉冉尊 |
古事記と日本書紀に登場する神代七代を一覧にしてみました。日本書記にのみ登場する「国狭槌尊」を除けは記紀ともに共通した神々が登場している事を考えると記紀編纂以前になんらかの歴史書が存在していたのか、はたまた、色々な文化を伝えた渡来人の影響なのかは分かりませんが、ある程度の共通認識があったように思えます。
まとめ
神代七代が誕生した事で何もなかった混沌とした何もなかった世界から男女が共に生活していく世界へと移り変わっていきます。そして、伊弉諾尊・伊弉冉尊による国造りが始まっていきます。
日本書紀を読んでいくにあったって、原文は漢文で書かれているので非常に読み込むのが困難なので、現代語訳されている本が一冊あると助かるかと思います。当サイトでは、戦前から日本書記の翻訳本として有名な岩波文庫の日本書記を非常に参考にさせて頂いています。