古事記を読む

海宮訪問|天津日子穂穂手見命

2025年1月12日

海宮訪問

 火照命と火遠理命はお互いが持って生まれたという「釣針」と「弓矢」を火遠理命の提案で交換してみますが、うまくいかず結局元に戻そうとしますが、火遠理命が釣針を失くしてしまった為、代わりの釣針で許してほしいと持っていた十拳剣を砕いて新たな釣針を作りますが、火照命は「元から持っていたあの釣針がいいのだ。」と一切代わりの釣針を受け取りませんでした。

古事記をよむ

於是其弟泣患居海邊之時 鹽椎神來問曰 何虛空津日高之泣患所由 答言 我與兄易鉤而失其鉤 是乞其鉤故雖償多鉤不受 云猶欲得其本鉤 故泣患之
爾鹽椎神云 我爲汝命作善議 卽造无間勝間之小船 載其船以教曰 我押流其船者差暫往 將有味御路 乃乘其道往者 如魚鱗所造之宮室 其綿津見神之宮者也 到其神御門者 傍之井上有湯津香木 故坐其木上者 其海神之女見 相議者也 訓香木云加都良木

故隨教少行備如其言卽登其香木以坐 爾海神之女豐玉毘賣之從婢 持玉器將酌水之時於井有光 仰見者有麗壯夫 訓壯夫云遠登古下效此 以爲甚異奇 爾火遠理命見其婢 乞欲得水 婢乃酌水入玉器貢進 爾不飮水解御頸之璵含口 唾入其玉器 於是其璵著器婢不得離璵 故璵任著以進豐玉毘賣命
爾見其璵問婢曰 若人有門外哉 答曰 有人坐我井上香木之上 甚麗壯夫也 益我王而甚貴 故其人乞水故奉水者不飮水唾入此璵 是不得離故任入將來而獻 爾豐玉毘賣命思奇出見 乃見感目合而白其父曰 吾門有麗人 爾海神自出見云 此人者天津日高之御子虛空津日高矣 卽於內率入而 美智皮之疊敷八重亦絁疊八重敷其上坐其上而 具百取机代物爲御饗 卽令婚其女豐玉毘賣

  • 虚空津日高・・火遠理命の別称
  • 勝間・・竹籠の事。目の詰まった籠
  • 香木・・桂の木の事
  • 海神・・綿津見大神

現代語訳

 弟は泣きながら海辺にて佇んでいた時、塩椎神が現れて問うた。
「どうした、虚空津日高よ。泣きながら思い悩む理由を聞かせてみよ。」
「兄から借りた釣針を失くしてしまった所、釣針を返してくれと言われ代わりに多くの釣針で償おうと思ったのですが、元の釣針を返してほしいのだと言われてしまったので、ここで泣きなたら思い悩んでいたのです。」と答えた。
その話を聞いた塩椎神は「私が貴方の為に良い手立てを用意しましょう。」と言うと、目の詰まった竹籠の小舟を造りその船に乗せ、「この船を押し流すのでそのまま暫く進んでいくと美し御道が現れるのでその御道に沿って進めば鱗の様な造りの宮殿が見えてきます。そこが海神の宮殿です。その宮殿の御門の前に着いたら、傍の井戸のそばに桂の木があるので、その木の上にしばらくいれば、海神の息女が現れるのでそこで相談されるといいでしょう。」と言った。

 (火遠理命は塩椎神に言われたとおりに)進んでいくとすべてが言われた通りであり、直ぐに桂の木に登り待っていた。すると海神の娘「豊玉毘売」の侍女が玉器に水を汲もうとした時、井戸に光が映った。仰ぎ見ると、麗しき立派な男がいて、とても不思議に思った。火遠理命が「水を頂けないだろうか。」とお願いすると、侍女は玉器に水を汲み差し出した。ところが水を飲まずに御頚の瓊を外して口に含み、その玉器に吐き出したところ、その瓊は器にくっつき、侍女は瓊を離すことができなかった。そこで瓊の付いたままの状態で豊玉毘売命に渡した。玉器を見た豊玉毘売命は「若しや、門の外に誰かがいるのですか。」と問うと、「人が井戸の上の桂の木の枝にいらっしゃって、とても麗しい男性なんです。我が君にもましてとても立派な方で、その方が水を所望されたので差し上げた所、水を飲まずにこの瓊を吐き入れたのですが、これが剥がす事ができなかったのでこの状態のままお持ち致しました。」と侍女は申し上げた。そこで豊玉毘売命は、不思議に思って自ら外に出て見たところ、一目ぼれしてしまい、互いを見つめ合い、父に「私たちの宮の門のところに麗い方がいます。」と申し上げた。それを聞いて、今度は海神自身が出て見てみると「この方は天津日高の御子、虚空津日高でいらっしゃる。」と驚き、直ぐに宮殿内に招き入れ、あしかの毛皮の畳を幾重にも重ねて敷き、さらにその上に絹の敷物を幾重に敷き、その上にお座りいただき、 百取机代物を用意し宴でもてなし、そのまま豊玉毘売を娶っていただいた。

 当サイトでは、古事記の現代語訳を行うにあたって、「新潮日本古典集成 古事記 西宮一民校注」を非常に参考させて頂いています。原文は載っていないのですが、歴史的仮名遣いに翻訳されている訳文とさらに色々な注釈が載っていて、古事記を読み進めるにあたって非常に参考になる一冊だと思います。

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今回登場した神々

火照命
火遠理命
塩椎神
豊玉毘売命
(海神)綿津見大神

まとめ

 塩椎神に出会う事で海神がいるという宮殿に向かう事ができ、そこで天津神であることから高貴な神であるとして歓迎されている様子が描かれています。この海神の住むという宮殿が海底なのか陸地なのかはまったく触れられていないので不明なのですが、海神と聞いてしますと海底を想像してしまいますね。海底の宮殿と聞くと「竜宮城」を想像し、浦島太郎の話を思い浮かべる方も多いのかもしれません。浦島太郎伝説に類似した話は世界各地でも広く流布されている様で、「今の世界とは隔離された場所に理想郷が存在する。」という願いは世界共通なのかもしれません。

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