古事記を読む

伊邪那岐・伊邪那美|神々を生む

2021年6月23日

神々を生む

 伊邪那岐命と伊邪那美命は国生み(その範囲はどうしても当時のヤマト朝廷の勢力下であった西日本が中心)によって大八嶋国と六つの嶋を生み終える所まで見てきました。

 今回は、二神は生んだ嶋の上に自然神、文化神などを次々と生んでいく、神生みと呼ばれるところを見ていきます。この神生みは、当時の人間生活を取り巻く環境が古代の宗教的儀礼と深い関りを持ち、またそれらが文化の象徴であるという考えに基づくものだとされています。

 それでは、二神がどんな神々を生んでいったのかを見ていきましょう。

古事記を読む

既生國竟、更生神。故、生神名、大事忍男神、次生石土毘古神 (訓石云伊波、亦毘古二字以音。下效此也) 次生石巢比賣神、次生大戸日別神、次生天之吹上男神、次生大屋毘古神、次生風木津別之忍男神 (訓風云加邪、訓木以音) 次生海神、名大綿津見神、次生水戸神、名速秋津日子神、次妹速秋津比賣神。(自大事忍男神至秋津比賣神、幷十神。)

此速秋津日子・速秋津比賣二神、因河海、持別而生神名、沫那藝神(那藝二字以音、下效此)次沫那美神(那美二字以音、下效此)次頰那藝神、次頰那美神、次天之水分神(訓分云久麻理、下效此)次國之水分神、次天之久比奢母智神(自久以下五字以音、下效此)次國之久比奢母智神。 (自沫那藝神至國之久比奢母智神、幷八神。)

次生風神・名志那都比古神(此神名以音)次生木神・名久久能智神(此神名以音)次生山神・名大山上津見神、次生野神・名鹿屋野比賣神、亦名謂野椎神(自志那都比古神至野椎、幷四神)

此大山津見神・野椎神二神、因山野、持別而生神名、天之狹土神(訓土云豆知)下效此、次國之狹土神、次天之狹霧神、次國之狹霧神、次天之闇戸神、次國之闇戸神、次大戸惑子神(訓惑云麻刀比、下效此)次大戸惑女神。(自天之狹土神至大戸惑女神、幷八神也。)

次生神名、鳥之石楠船神、亦名謂天鳥船。次生大宜都比賣神。(此神名以音。)次生火之夜藝速男神(夜藝二字以音)亦名謂火之炫毘古神、亦名謂火之迦具土神。(迦具二字以音)因生此子、美蕃登(此三字以音)見炙而病臥在。多具理邇(此四字以音)生神名、金山毘古神(訓金云迦那、下效此)次金山毘賣神。次於屎成神名、波邇夜須毘古神(此神名以音)次波邇夜須毘賣神。(此神名亦以音)次於尿成神名、彌都波能賣神、次和久產巢日神、此神之子、謂豐宇氣毘賣神。(自宇以下四字以音)故、伊邪那美神者、因生火神、遂神避坐也。(自天鳥船至豐宇氣毘賣神、幷八神。)

凡伊邪那岐、伊邪那美二神、共所生嶋壹拾肆嶋、神參拾伍神。(是伊邪那美神、未神避以前所生。唯意能碁呂嶋者、非所生。亦姪子與淡嶋、不入子之例也。)

  • 既生國竟は「既に国生みを終えて」の意
  • 故は「そこで」の意
  • 因河海、持別而生神名は河と海を分担し、神をお生みになった。
  • 因山野、持別而生神名は山と野を分担し、神をお生みになった。
  • 神避坐は「亡くなる」の意

現代語訳

伊邪那岐命と伊邪那美命は国生みを終え、更に神をお生みになった。

生まれたはじめの神の名は、大事忍男神おほことおしをのかみ。次に石土毘古神いはつちびこのかみ、次に石巣比売神いはすひけのかみ、次に大戸日別神おほとひわけのかみ、次に天之吹男神あめのふきをのかみ、次に大屋毗古神おほやびこのかみ、次に風木津別之忍男神かざもつわけのおしをのかみ、次に海の神である大綿津見神おほわたつみのかみ、次に港の神である速秋津日古神はやあきつひこのかみ、次に女神の速秋津比売神はやあきつひめのかみをお生みになった。大事忍男神から秋津比売神まで合わせて十神である。

この速秋津日子はやあきつひこ速秋津比売はやあきつひめの二神が、河と海を分担し、さらに(伊邪那岐の命と伊邪那美の命が)お生みになったのは、沫那芸神あわなぎのかみ沫那美神あわなみのかみ、次に頬那芸神つらなぎのかみ頬那美神つらなみのかみ、次に天之水分神あめのみくまりのかみ国之水分神くにのみくまりのかみ、次に天之久比奢母智神あめのくひざもちのかみ国之久比奢母智神くにのくひざもちのかみである。沫那芸神から国之久比奢母智神まで合わせて八神である。

次に生まれた神の名は、風の神である志那都比古神しなつひこのかみ、次に、久久能智神くくのちのかみ、次に、大山津見神おおやまつみのかみ、次に、鹿屋野比売神かやのひめのかみ、またの名を野椎神のづちにのかみという。志那都比古神から野椎神まで合わせて四神である。

この大山津見神おおやまつみのかみ野椎神のづちのかみの二神が、山と野を分担し、さらに、(伊邪那岐の命と伊邪那美の命が)お生みになったのは、天之狭土神あめのさづちのかみ国之狭土神くにのさづちのかみ、次に天之狭霧神あめのさぎりのかみ国之狭霧神くにのさぎりの神、次に天之闇戸神あめのくらとのかみ国之闇戸神くにのくらどの神、次に大戸或子神おおとまとひこのかみ大戸或女神おおとまとひめの神である。天之狭土神から大戸或女まで合わせて八神である。

次に生まれた神の名は、鳥之石楠船神とりのいわくすふねのかみといい、またの名を天鳥船あめのとりふねという。
次に大宜都比売神おおげつひめのかみを生んだ。次に火之夜芸速男神ひのやぎはやおのかみ、またの名は火之炫毘古神ひのかがびこのかみといい、またの名は火之迦具土神ひのかぐつちのかみという。この子をお生みになったことで、伊邪那美は、陰部が焼けて病の床に伏してしまった。。それでもの嘔吐した物から出現した神の名は金山毘古神かなやまびこのかみ金山毘売神かなやまびめのかみという。次に大便から出現した神の名は波邇夜須毘古神はにやすびこのかみ波邇夜須毘売神はにやすびめのかみという。次に尿から出現した神の名は弥都波能売神みつはのめのかみ和久産巣日神わくむすひのかみという。この神の子は食物神である豊宇気毘売神とようけびめのかみという。そして、伊耶那美神は火の神を生んだことが原因で、遂にお亡くなりになられた。天鳥船から豊宇気毗売神までは合わせて八神である。

すべて伊耶那岐・伊耶那美の二神が共にお生みになった島は十四島、そして神は三十五神である。
これらの神は伊耶那美の神が亡くなる前にお生みになった神になる。ただ淤能碁呂島おのごろしまはお生みになったのではなく、
また蛭子と淡島は生んだ子の数には入れていない。

これが伊邪那岐と伊邪那美の神生みになります。ひたすらお生みになった神々の名前が列挙しているのですが、さすがにこれだけお生まれになるとここの場面でしか登場しない神々も多く、どういった神なのかはお生まれになった場面やその名に使わている漢字から推測する必要があるようです。

 実は、ここには解釈について未だ決着がついていない所が2ヶ所あるとかで、この解釈をどうするかで実は・・・神の数に影響を及ぼしてしまうようです。それが、

此速秋津日子・速秋津比賣二神、因河海、持別而生神名、沫那藝神(那藝二字以音、下效此)次沫那美神(那美二字以音、下效此)次頰那藝神、次頰那美神、次天之水分神(訓分云久麻理、下效此)次國之水分神、次天之久比奢母智神(自久以下五字以音、下效此)次國之久比奢母智神。 (自沫那藝神至國之久比奢母智神、幷八神。)

此大山津見神・野椎神二神、因山野、持別而生神名、天之狹土神(訓土云豆知)下效此、次國之狹土神、次天之狹霧神、次國之狹霧神、次天之闇戸神、次國之闇戸神、次大戸惑子神(訓惑云麻刀比、下效此)次大戸惑女神。(自天之狹土神至大戸惑女神、幷八神也。)

の部分になります。注釈でも述べていますが、この部分を訳していくと速秋津日子神と速秋津比賣神(大山津見神と野椎神)は河と海(山と野)を分担し生んだ神は・・・・・。と訳すことができ、以降に続く十六神は伊邪那岐・伊邪那美が生んだ神ではなく、速秋津日子神と速秋津比賣神、大山津見神と野椎神によって生まれた神であると読めてしまいます。実際、こうして訳している文献も多いですね。しかし、この様に訳してしまうと、古事記に書かれている伊邪那岐と伊邪那美が生んだ神々は三十五神には到底足りなくなってしまう訳です。

 なにやらここの解釈の問題は江戸時代に本居宣長によって古事記が再発見されてから続いている問題に様で、本居宣長は当該部分の「生神名(生みたまえる神の名)」の主語は伊邪那岐・伊邪那美であるとする一方、渡会延佳は当該部分の主語を速秋津日子神と速秋津比賣神(大山津見神と野椎神)であるとしている様です。

それでは、上記の問題点も含めて、登場した神々を見ていこうと思います。

神生みで生まれし神々

  1. 大事忍男神
  2. 石土毗古神
  3. 神石巣比売神
  4. 大戸日別神
  5. 天之吹男神
  6. 大屋毗古神
  7. 風木津別之忍男神
  8. 大綿津見神
  9. 神速秋津日子神
  10. 速秋津比売神
  11. 沫那芸神
  12. 沫那美神
  13. 頰那芸神
  14. 頰那美神
  15. 天之水分神
  16. 国之水分神
  17. 天之久比奢母智神
  18. 国之久比奢母智神
  19. 志那都比古神
  20. 久々能智神
  21. 大山津見神
  22. 鹿屋野比売神(別名:野椎神)
  23. 天之狭土神
  24. 国之狭土神
  25. 天之狭霧神
  26. 国之狭霧神
  27. 天之闇戸神
  28. 国之闇戸神
  29. 大戸或子神
  30. 大戸或女神
  31. 鳥之石楠船神(別名:天鳥船)
  32. 大冝都比売神【国生み:粟の国神「大宣都比売神」と同一か?】
  33. 火之夜芸速男神(別名:火之炫毗古神、火之迦具土神)
  34. 金山毗古神
  35. 金山毗売神
  36. 波迩夜湏毗古神
  37. 波迩夜湏毗売神
  38. 弥都波能売神
  39. 和久産巣日神
  40. 豊宇気毗売神

神生みの段で生まれた神々は合計で四十柱になります。おや?三十五神じゃなかったのか?と疑問を持つわけですが、どうも神世七代と同様に男女対偶の神は二柱で一神と数えていた可能性があるっぽいかな。柱ではなく神としている点をみてもそんな気がしてきます。じゃあこの四十柱の中で男女対偶の神っていったい誰なんだ?。

  1. 神速秋津日子神・速秋津比売神
  2. 大戸或子神・大戸或女神
  3. 金山毗古神・金山毗売神
  4. 波迩夜湏毗古神・波迩夜湏毗売神

上記の八柱がそれぞれ対偶神とされているようです。

そして、最後に登場した豊宇気毗売神は和久産巣日神の子であり、伊邪那岐・伊邪那美が生んだ神ではないので数に入れないとすると、四十柱ー五柱=三十五柱となる訳です。

まとめ

 この神生みで生まれた神の2番目から7番目に生れた六柱の神を「家宅六神」と総称するそうです。

  • 土石の神格「石土毗古神」
  • 石や砂の神「石巣比売神」
  • 門の神「大戸日別」
  • 屋上の神「天之吹男神」
  • 家屋の神「大屋毗古神」
  • 防風の神「風木津別之忍男神」

その総称の名が示す様に、人々が住む居宅の守護神として祀られてきた神々になります。

家宅の神を生んだ後、自然が化成した神々が生まれていきます。こうして日本列島には神々の息吹が感じられる国土が形成されていったとしているわけです。ここでも、人間を取り巻く環境に宿る神々は「生まれた」のであって「造られた」としていない所が要点の一つになります。

しかし、火の神である「火之加具土神」を生んだ時に、伊邪那岐は重傷を負ってしまい、その傷が元となり死亡してしまいます。ここは「火」というのは非常に役にたつものだが、一歩間違えるととんでもない事になってしまい、天津神である伊邪那美をも焼き殺してしまうという恐怖心を表しているんだと思う訳です。

最愛の伊邪那美を失ってしまった伊邪那岐はこれからどう行動するのか?が次回書かれていきます。

-古事記を読む