
火遠理命/彦火火出見尊とは?
- 古事記における表記
- 火遠理命 / 山佐知毘古 /天津日子穂穂手見命
- 日本書紀における表記
- 彦火火出見尊 / 火折彦火火出見尊 / 虚空彦
火遠理命の伝承
木花之佐久夜毘売は日子番能邇邇芸命の子を身籠っていると伝えますが、日子番能邇邇芸命はその話を聞いて「一夜の契りで身籠る訳がない。その子は国津神の子であろう。」と答えています。この日子番能邇邇芸命との会話で自らの潔白を証明する為、木花之佐久夜毘売は「いまから産む子が国津神であるならば無事では済まないだろう。しかし天津神であるのならば、無事に生まれるだろう。」という誓約を行い、産屋に火を付けて出産に臨みます。
- 古事記
- 火が盛んに燃えている時に「火照命」
- 次に「火須勢理命」
- 次に「火遠理命」が産まれています。
- 日本書紀(九段本書)
- 煙が立ち上がる頃に「火闌降命」
- 火の熱を避けて産屋の隅にいた時に「彦火火出見尊」
- 次に「火明命」が産まれています。
- 日本書記(九段一書二)
- 焔の起こり始めで「火酢芹命」
- 火が盛んになった時に「火明命」
- 次に「彦火火出見尊」が産まれています。
- 日本書紀(九段一書五)
- 火のつき始めに「火明命」
- 火が盛んになった時に「火進命」
- 火が衰えてきた時に「火折尊」
- 火の熱が冷めてきた時に「彦火火出見尊」が産まれています。
燃える産屋で生まれたという事もあり、古事記、日本書紀共に、生まれた子の神名に「火」が入っているのが特徴になるのですが、生まれた順については一貫性がないなど伝承に食い違いがあるのが面白い所ですね。
火遠理命は山佐知毘古とも呼ばれ、山幸を生まれ持っており、兄の火照命は海幸を生まれ持っていた。あるとき火遠理命は兄に「お互いの幸を交換してみないか。」と相談し、嫌がる兄をなんとか説得し幸を交換する事ができた。海幸(釣針)を得た火遠理命は海で漁を行うが釣り上げることができないばかりか釣針を失くしてしまった。兄の火照命も山幸(弓矢)で狩猟を試みるが上手くいかなかった様で火遠理命に「やっぱり交換した幸を戻さないか。」と持ち掛けるが火遠理命は「実は交換した幸(釣針)を失くしてしまったので代わりの釣針を用意するからそれで許してもらえないだろうか。」と告白した。火照命は「自分が渡した幸(釣針)以外は受け取らない。」と言い、「幸を返せ」と火遠理命を攻め立てた。攻められた火遠理命はほとほと困ってしまい海辺で黄昏ていた時、塩椎神と出会い、助言と助力を得て、船で海流にのって綿津見神の宮殿に向かった。
火遠理命は宮殿で綿津見神の娘である豊玉毘売を娶り、三年過ごしたが故郷を思い出して溜息をつく事があった事から豊玉毘売は綿津見神に相談した。火遠理命は綿津見神に宮殿に来た理由を話すと、綿津見神は魚を集め、釣針の行方を聞き赤目の口の中から釣針を見つけ、火遠理命に渡した。そして、塩盈珠・塩乾珠を助言と共に授け、一尋和邇に火遠理命を載せ地上に送り届けさせた。地上に戻った火遠理命は火照命に後ろ手に釣針を返して塩盈珠・塩乾珠を使い兄を屈服させた。以降火照命は昼夜の守護として火遠理命に仕えた。
その後、豊玉毘売が地上にやってきて天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命を出産するが、出産前に火遠理命に「絶対に出産する姿を見ないでください。」と強く言われたにも関わらず火遠理命は産屋の中を覗いてしまった。産屋の中に豊玉毘売の姿はなく八尋和邇が赤子を抱いていた。変身した姿を見られてしまった豊玉毘売は子を置いて海の世界に戻ってしまいますが、やはり子の事がきになって妹の玉依毘売を養育役(乳母)として地上に送っています。
「山幸」を持って生まれてきたとされ、獣などの狩猟に特別な才覚を持つ神として描かれています。これに対し、兄の(火照命(古事記)/火闌降命(日本書紀))は「海幸」を持って生まれてきたとされ、魚などの狩猟に特別な才覚を持つ神であるとしています。
そして、お互いの幸を交換した後、釣針を失くしてしまい探しに行くという海幸山幸神話が主たる内容となるのですが、東南アジアなどに広く分布している「失われた釣針」とも言われる説話に非常に酷似していて、東南アジアから日本に伝播した説話を元に、海に潜って海宮で数年過ごしてまた地上に戻るというまさに浦島伝説などをはじめ様々な伝説などを融合させて造られたのが海幸山幸神話になるようです。この辺りから古代日本は思いのほか広い地域と交易があったんじゃないのかなと想像してしまいます。
日本書紀を読んでいくにあったって、原文は漢文で書かれているので非常に読み込むのが困難なので、現代語訳されている本が一冊あると助かるかと思います。当サイトでは、戦前から日本書記の翻訳本として有名な岩波文庫の日本書記を非常に参考にさせて頂いています。
神々のデータ
神名 | 古事記 :火遠理命 日本書紀:彦火火出見尊(九段本書・十段本書) |
神祇 | 天津神 |
別称 | 古事記 :山佐知毘古・天津日子穂穂手見命 日本書紀:火折彦火火出見尊・虚空彦 |
親 | 天津日子番能邇々芸命 木花之佐久夜毘売 |
配偶 | 豊玉姫 |
子 | 鸕鶿草葺不合尊 |
陵 | 高屋山上陵(たかやのやまのえのみささぎ) 鹿児島県霧島市溝辺町菅ノ口(GoogleMap) |
火遠理命を祀る神社
- 於呂神社
まとめ
「海神の助力を得て、隼人の祖とされる兄の火照命を屈服させる」というのが火遠理命の段のざっくりとしたまとめになるかと思います。兄弟として描かれていますが、高千穂を中心とした王権集団が徐々に周囲の豪族を制圧していく中で「隼人」と呼ばれる勢力を従属させた事を反映しているのではないでしょうか。