古事記を読む

仲哀天皇|崩御と神託

2021年6月28日

仲哀天皇の崩御とその後の神託とは?

 仲哀天皇の皇后である神功皇后は、仲哀天皇の「熊襲攻め」に同行し、筑紫橿日宮において神懸りとなり神託を告げるが、仲哀天皇はその神託を受け入れる事は出来なかった。すると、「そなたの治める国はここには在らず。このまま真っ直ぐに黄泉国に向かうがいい。」との神罰を受けてしまいます。

実は、この段には、現在でも六月晦日と十二月大晦日に宮中三殿を始めとして全国の神社で催行されている「大祓」についての記述があります。少なくとも、古事記が編纂された和銅五年(712年)以前より「大祓」の神事が執り行われていた証左になっています。大祓を行う場面とはどんな場面なのか、古事記の内容を見ていきましょう。

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於是建内宿禰大臣白。恐我天皇。猶阿蘇婆勢其大御琴。〈自阿至勢以音。〉爾稍取依其御琴而。那摩那摩邇〈此五字以音。控坐。故未幾久而。不聞御琴之音。即擧火見者。既崩訖。
爾驚懼而。坐殯宮。更取國之大奴佐而。〈奴佐二字以音。〉種種求。生剥。逆剥。阿離。溝埋。屎戸。上通下通婚。馬婚。牛婚。鷄婚。犬婚之罪類。爲國之大祓而。亦建内宿禰居於沙庭。請神之命。於是教覺之状。具如先日。凡此國者。坐汝命御腹之御子。所知國者也。
爾建内宿禰。白恐。我大神。坐其神腹之御子。何子歟。答詔。男子也。爾具請之。今如此言教之大神者。欲知其御名。即答詔。是天照大神之御心者。亦底筒男。中筒男。上筒男。三柱大神者也。〈此時其三柱大神之御名者顯也。〉今寔思求其國者。於天神地祇。亦山神及河海之諸神。悉奉幣帛。我之御魂。坐于船上而。眞木灰納瓠。亦箸及比羅傳〈此三字以音。〉〉多作。皆皆散浮大海以可度。

  • 建内宿禰:景行・成務・仲哀・応神・仁徳の五帝に仕えた伝説の忠臣
  • 天津罪あまつつみ国津罪くにつつみ:祓うべき罪とするもの
    • 生剥:獣の皮を生きながらに剝ぐ
    • 逆剥:獣の皮を異常なかたちで剝ぐ
    • 阿離:田の畔(あぜ)を壊す
    • 溝埋:田畑に水を引いている溝(用水路)を埋める
    • 屎戸:祭場に大便をする
    • 上通下通婚:親子の姦淫
    • 馬婚・牛婚・鷄婚・犬婚:獣姦
  • 底筒の神。中筒の神、上筒の神の三柱は「住吉三神」とも呼ばれ、住吉大社の御祭神でもある。

現代語訳

 そこで、大臣である建内宿禰「恐れながら、陛下、やはりその大御琴を弾かれた方がよいかと。」と申し上げると、仲哀天皇はそろそろと御琴を引き寄せ、しぶしぶ弾いておられた。程なくして、御琴の音が聞こえなくなってします。すぐに灯をともして御琴の方を見ると、既に仲哀天皇は崩御なされていた。
 一行は驚き恐れ入り、御遺骸を殯宮に安置申し上げて、国中から大幣をかき集め、生剥。逆剥。阿離。溝埋。屎戸。上通下通婚。馬婚。牛婚。鷄婚。犬婚などの色々な罪を列挙して、国の大祓を催行された。そして、建内宿禰は再び祭場にて神託を請うと、告げられた神託は前回の神託と悉く同じであり、「この国は神功皇后の胎内に坐す御子が統治すべき国である。」とお告げになった。
 そこで建内宿禰は「恐れながら、大神よ、皇后の胎内に坐す御子は男女どちらであらせられますか。」と申すと「男御子である。」と仰せられになった。さらに建内宿禰は更に詳しく神託を請うべく「今このように神託を授けて頂ける大神は、何という神かその神名をお知らせください。」と求めると、答えがあり、「神託は天照大御神の御心である。また底筒の男、中筒の男、上筒の男の三柱の御心である。(この時初めて三柱の神名が顯れた。)今本当に西の国を求めるのならば、天津神、国津神、また山の神、河の神、海の神、などすべての神すべてに幣帛を奉り、わが御魂を船の上に祀り、真木の灰を瓢箪に入れ、箸とひらでを多く作り、それらをすべて大海に散らし浮かべて、御渡りなさい。」とお告げになった。

 神託を受け入れなかった仲哀天皇は、神罰を受け、崩御されてしまいます。ここの記述により、いくら天皇であろうと神託を受け入れなかった場合は必ず神罰を受けるという事を示しています。ヤマト朝廷の元首たる仲哀天皇が神罰によって崩御してしまった為、この「罰」を祓い国並びに民を綺麗にするために行われるのが「大祓」になり、この時、様々な罪(天津罪、国津罪ともいう。)も併せて払う事で国中の大祓をおこなっています。

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コラム

建内宿祢が訪ねた「神託を与えた神の名」の答えは、「天照大御神、上筒神、中筒神、底筒神」の四柱の名前であると答えています。この中で、天照大御神は皇祖神として、天皇の御代替わりに関わる神託であることからその名が登場してきたのだろうと思われます。

では、上筒神、中筒神、底筒神とは?と思われますが、この三柱は「住吉三神」とも呼ばれ、実は神懸りとなった神功皇后を合わせた四柱は大阪市住吉区に鎮座する「住吉大社」の御祭神として祀られている神になります。古代から住吉三神は航海守護神として祀られてきたとされ、ヤマト朝廷と朝鮮半島に存在した百済、伽耶などの親ヤマト朝廷の国々との交易においては絶大な権力を有していたとも考えられてます。

この事を踏まえて、この神託部分でいきなり住吉大社の御祭神が登場していくる意味を考えると、新羅国征伐のくだりは住吉大社の意向が多大に反映されているのではないか?という事です。新羅征伐が行われると、この征伐を主導した神功皇后をが御祭神として祀る様になったと想像するのはどうでしょうか。これを考えていくと、仲哀天皇は住吉三神ではない神を崇敬していたが、朝廷における権力争いで敗れたため排除されたというのもあながちありえない話ではないような気がしてきます。

住吉大社といえば、国宝に指定されている「住吉造」と呼ばれる独特の建築様式で建てられた本殿と国の重要文化財に指定されている拝殿・幣殿が設けられた社殿が四宮建立されていて、それが並んで立っている社殿配置が有名です。

  • 第一本宮:底筒男命
  • 第二本宮:中筒男命
  • 第三本宮:表筒男命
  • 第四本宮:神功皇后

まさに、住吉大社こそ仲哀天皇への神託の本質だったという気がヒシヒシと感じてきませんか?

 神託で「日本の国土は神功皇后の胎内にいる御子が統治すべし」と告げられ、御子が生誕し、天皇に即位するまでの間は皇位は空位であったとされ、神功皇后が摂政となっています。
 そして、神託により、東シナ海を渡り、朝鮮半島の新羅国への親征へと繋がっていきます。

まとめ

 仲哀天皇は神功皇后の神懸りによる神託を受け入れなかった為、「治める国はここにあらず、黄泉国にむかうがいい。」という神罰により崩御してしまいます。いくら天照大御神の直系といえども、神託に逆らう事は許されないという事でしょうか。そして、その後の大祓に繋がっていくあたりに当時の罪というものをどう考えていたのかという事が分かる場面でもあるかと思います。

 当サイトでは、古事記の現代語訳を行うにあたって、「新潮日本古典集成 古事記 西宮一民校注」を非常に参考させて頂いています。原文は載っていないのですが、歴史的仮名遣いに翻訳されている訳文とさらに色々な注釈が載っていて、古事記を読み進めるにあたって非常に参考になる一冊だと思います。

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